戻る
「椿君、宝高に友達いる?」
 私は禁断の問いを発した。
 そう椿君は、実は宝高に、私以外の友達がいないのではないか……という疑問。
 友達に持ってはならぬ疑問かもしれない。
 だが、いつまでも中学時代の友達……つまり私べったりなのってどうなのかと思う。
 5月を過ぎると一年生も学校に慣れて、新しい友達との付き合いが本格化する。
 なのだけれど、椿君にはその気配がまったくなかった。
 いわゆる、王様は孤独というやつなのかもしれない。
 家に帰れば夏草君もいるから、いいのかもしれない。
 でも、学校にも友達はいた方がいいんじゃないかとか思うのは、余計なお世話だろうか。
 付き合いは程々に拡散させた方がいいんじゃなかろうか。
 ああいや、けっして、心配性の椿君がウザいとかそういうわけじゃ。
「いるけど」
 椿君はちょっと考えてから、そう答えた。
 ……いるの!?
 でも驚く間もなく、鼻先に指が突きつけられる。
「あー、私以外に」
「苗床以外に?」
「うん、なんか椿君、私べったりだからさ。学校にも、他の友達でも恋人でも作った方が
いいんじゃないかなって」
 と言うと、椿君はすごく嫌な顔をした。
「……お前は?」
 そして冷ややかに問い返された。
 む。質問返しだ。
「い――いるよ」
 一瞬考えてしまったけど、一応いる。多分いる。
「誰?」
「夢見さん」
 そう答えると、椿君は、すぅと息を吸って。
「夢見! 見てんだろ? 来いよ」
「はいっ!」
 呼ぶと、夢見さんは廊下から教室に飛び込んで来た。
 ……見てたのか。
 最近、夢見さん、隠密度があがってるな。
 今、見てるのは気がつかなかった……
「椿君、夢見さんが見てたの気がついてたの?」
 自分が気がつかなかったのに、椿君が気がついてたとなると、私の察知力が落ちてる可
能性もあるな。
「いや、全然。でもいつも見てんだろうと思って」
 そ、それだけの見当で、あんな大声出したのか。
 ……王様は違う。
「夢見」
「はい、なんでしょう、椿様」
「苗床とは友達?」
 そして!
 夢見さんを呼んだのは、確認するためかっ!
「はい、もちろんです♪」
 ……良かった、違いますとか言われなくて。
「俺とは?」
 ……なに?
「もちろんお友達です! 椿様!」
 …………
「サンキュ」
 そして椿君は満面の笑みで、私を再度見た。
「これでいいか?」
「あ……いや。同性の友達も必要じゃないかと」
「細けーな、小学校の先生みたいなこと言うなよ。 ……戸田!」
 椿君は前を振り返って、戸田君を呼んだ。
「はい! なんでしょう」
「俺たち、友達だよな」
「もちろん……!」
 戸田君の返事を聞いてから、椿君はもう一度後ろを向いて、私を見た。
「これでいいか?」
 ……しまった。
 そんな心配なんかしなくていいって、椿君の顔に書いてある。



 その後も、椿君の外国人スキンシップな私べったりは続いた。
 「宝高の友達」の中で私は特別なのかなって思ったら、ちょっとだけ嬉しかったけど。
 でも、自意識過剰って言われるだろうから、それは椿君には秘密だ。

戻る

inserted by FC2 system