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「うん、なんか椿君、私べったりだからさ。学校にも、他の友達でも恋人でも作った方が
いいんじゃないかなって」

 苗床のヤツ……友達を作った方がいいなんて、お前に言われるとは思わなかったぜ。
 高校で方針転換したからって言って、中学時代あれだけ孤独だけが友達だって言ってた
ような苗床が、俺に友達作れとか言うか?
 ましてや恋人なんて。
 俺の気持ちなんて、ほんとわかっちゃいねー。
 恋人作れとか、その口で言うのか。
 ここが教室で良かったな、苗床。
 人目がなかったら、さすがにちょっと実力行使を考えたかもしんねー。
 いや、きっとしてた。
 ……別に俺はさ、お前だけいればいいのに。
 他に誰も必要じゃない。
 お前だけ、苗床だけいればいい。
 そんな風に思ってるのは、本当にまったく伝わってねーんだな。
 それとも、あれなのか。
 ……俺が鬱陶しいのか。
 俺を誰かに押しつけて、自分は自由になろうって……
 自由になるってだけならまだいい。
 俺がいると隠密行動がしにくいっていうんなら、ちょっとは目を瞑る。
 でも俺が邪魔なのは、他に一緒にいたいヤツがいるからだったりしたら。
 もし、それが男だったりしたら。
 ……いるのか?

 一瞬で考えられる限界の速さのマイナス思考が俺の中を駆け巡った。
「……お前は?」
 自分の考えに我慢出来なくなって、苗床を問い詰めたくなった。
「い――いるよ」
 こいつ、一瞬詰まった。
 いるのか?
 いないのか?
 聞いて正直に答えるのか?
 いや、答えるだろう。
 ……悲しいかな、こいつは俺を意識してない。
 だから無警戒に答えるはずだ。
「誰?」
「夢見さん」
 ……女か。
 とりあえず無駄に画策されると面倒だから、苗床の考えをへし折っておくことにした。
俺に誰かをあてがおうって策なら、別に俺は苗床以外は要らないが。苗床が自分から離れ
ていこうとかすると、それは困る。
 何かする必要なんざないんだと、思わせておかないとな。

 ――夢見と戸田に頷いてもらって、ひとまず退かせたが。

 どうしてくれよう。
 俺はお前だけいりゃいいのに。
 そしてお前の周りも、俺だけになればいいのに。
 ほんとにな、合法的に監禁できる方法ねーかな――

 なんて思いながら、俺が髪にキスしてるなんて、いつになったら気がつくんだろうな。

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