戻る
「つーばーきー」
 夏草が家に来た。
「なんだよ、今日は」
 別に親しい友達ってわけじゃねーよって言っても、姉貴が家に上げちまう。姉貴は顔だ
けで判断するからな……
 夏草が悪い奴だとは言わないが、正直面倒臭ぇことは多々ある。
 地味に苗床と気が合うっぽいところは、ムカつく。
 そんな俺の考えなんざ、想像もしてないだろうってとこが鬱陶しい。
「今日は相談に来たんだ」
「なんのだよ」
「花井にアタックするにはどうしたらいいと思う?」
 ……好きにしろって言っていいか。
「……なんで俺に聞くんだ? わざわざうちに来なくても、山田がいるだろ、高校に」
 普通、相談しやすいところにこういう話は持ってくもんじゃねーのか。俺は他人に相談
したことはねーから、知らないが。
「山田は自分に彼女ができないから、アドバイスできないって」
 だからそれで、なんで俺んとこに来るんだよ。
 苗床が俺の彼女だと思ってるとでも言うのか、夏草は。
 …………
 そんなはずはないが、自分の想像で、ちょっと気分が良くなった。
 俺にできるアドバイスくらいは、してやってもいい。
「どうすりゃいいかな、椿。花井は女子校だしさ、あんまり会えるわけじゃないし」
「言えばいいだろ」
「いきなり過ぎないかぁ? こうさ、自然に伝わるような意識してもらえるような方法っ
てないかな」
 あるんなら、俺が是非聞きたい。
 まあ、苗床ほど花井は鈍くないだろうから、俺が苗床にしてるくらいのことをしたら、
きっと伝わるだろ。
 だから、俺が苗床にしたことを並べてみた。
 正面から抱きしめてみるとか。
 後ろから抱きしめてみるとか。
 膝枕してみるとか。
 おでこにキスしてみるとか。
 髪にキスしてみるとか。
 首に噛みついてみるとか。
 って、言ってたら。
「椿……ごめん」
 いきなり夏草が深く溜息を吐いた。
「……俺には無理だよ……高度過ぎる」

戻る

inserted by FC2 system