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 12月に入ると町はクリスマス一色だ。
 世界的にはクリスマスは家族と過ごす日っていうのが一般的らしいが、日本では恋人同
士がいちゃいちゃする日である傾向が強い。
 まだ恋愛に遠いローティーンであれば、友達同士で馬鹿騒ぎする日ってこともある。
 俺は、歳にして、そのちょうど境目。
 希望は好きな女と過ごしたいが、残念ながらその相手……苗床は恋人ではない。
 でも、やっぱり、クリスマスは苗床と二人で過ごしたい。
 しかしな。そもそもだ。
 苗床に、自発的にクリスマスに誰かと過ごすつもりなんてものがあるのか?
 …………
 あるか。
 花井と一緒に、とか考えてそうだよな……
 どこまでも、花井は敵だ……
 花井は、またパーティーとか計画するつもりなんだろうか。
 あるいは、杜若んちのパーティーに、とか。
 花井は自分が行くとなれば、あるいは計画するとなれば、苗床を誘うだろう。そして今
の苗床は、何を置いても花井に誘われれば行くだろう。
 とすると、だ。
 花井に、クリスマスに苗床を誘わせなければいい、ということになる。
 ここは敢えて花井にパーティーを計画させ、かつ開催日はクリスマス及びイブを外させ
る。そうすれば万が一杜若がパーティーをやると言って、花井と苗床が行くとしても、イ
ブか当日のどちらかは空くだろう。
 夏草や山田は、花井がやるなら、きっと重ねては企画しない。
 よし。
 そうと決めれば……善は急げだ。



「花井、クリスマスはなんかやるのか?」
 電話の向こうが、しばし沈黙する。そして不思議そうに聞かれた。

 ――椿君、どうしたの?

「……なんかやって、苗床を誘うんなら、俺も誘えよって話」

 ――あ、そういう……うん、わかった。またみんなで小さいパーティーでもできたらな
って思ってたんだけど。具体的には決めてなかった。

「まだ全然決めてなかったんなら、ちょうどよかった。できればイブと当日は外してくれ
ないか」

 ――都合悪いの?

「ちょっとな。23日は祭日だし、そこじゃ駄目か?」

 ――うん、椿君が出られないってわかってる日にするのは意地悪だものね。じゃあ、23
日で、みんなに聞いてみる。場所は……うちになるかもだけど。

「俺はいいぜ。邪魔にならないなら」



 めでたく計画通り、花井主催のクリスマスパーティーはイブイブの23日になった。
 ケーキ食ったり、プレゼントを交換したりで、普通のパーティーだった。
 俺は苗床が楽しければそれでよかったし、実際楽しそうだった。
 苗床の誕生日までは俺も気がつかなかったけど、こいつこういうの本当は好きなんだな
って思う。
 俺は苗床だけいればいいけど、苗床はそうじゃない……っていうのは、ちょっと気にな
るが。今はしょうがないな。

 そして、イブ。
 杜若はバイトとライブで、今年は自分ちのパーティーはなしだということだった。
 苗床が実家に帰るのはクリスマスの夜だって聞いた。
 とすると、イブとクリスマス当日の昼まで、苗床に予定は入ってない……はずだ。
 苗床に約束を取り付けているわけじゃない。花井から俺に用事が入ってるって漏れちま
ったので、クリスマスにどっか行こうと誘うのは難しかった。
 俺は用事にキャンセルが入った設定の元、手土産のチキンを持って、イブの午前中に直
接粒麗荘を訪ねた。
「あれ? 椿君?」
 そして、出てきたのは……
「花井!?」
「椿君、用事があるんじゃなかったの?」
「……急にキャンセルになって」
「あれー、椿君」
 苗床も顔を出す。
「今日は桃ちゃんと二人でクリスマス会やるって、言ったっけ」
 ……聞いてない。
「今日は、かのちゃんちにお泊まりなの」
 ……花井が言った。
 絶対今の、自慢だったな!?
 くそ、花井、三日連続で苗床とクリスマスってなんだよ!
「俺も混ぜろよ。ほら、チキン」
 俺は苗床を追い立てるように中に入る。
 ……俺の、苗床と二人きりのクリスマスの野望は潰えたが。
 しょうがねー、今年は三人で我慢してやる。
 来年こそは、−1だ……!

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