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 3月14日、ホワイトデー。
 バレンタインデーのお返しの日だ。
 プレゼントをつけることもできるが、苗床は値段が高いとまた受け取らねーのなんのと
言い出すかもしれねーし、加減が難しい。
 悩んだ末に、今回は形の残らないもので妥協することにした。
「苗床、今日の夕飯は奢るから飯食ってこーぜ」
「え、何? なんで?」
「3月14日だから」
「へ?」
「ホワイトデーだろ。お返しに飯とデザート奢る。お前には現実的なもんが一番良さそう
だと思ったんだけど、違うか?」
「あー、気を遣ってもらって悪いね。うん、じゃあ、奢られようかな」
 ……よし、正解だな。

 で、気取ってもしょうがないので、学校帰りにファミレスに寄った。
 苗床はメニューを開いて、パラパラ捲って。
「どれにしようかな」
「高くてもいいから、栄養のあるもの選べよ」
「……椿君、ほんとにお母さんみたいだよ。なんでそうなの」
 それはお前が、普段栄養偏ってるからだ。
 それにこれは、母親みたいだなんて言われることじゃねーぞ。
「基本的には好きなもんでいいけど、俺の奢りなんだから、俺の意向も少しくらい汲め」
「うー、わかった。じゃ、ハンバーグセットにする。サラダつけて」
 それでそのまま苗床がメニューを閉じようとしたから、それを止めた。
「デザートは?」
「そんなに入んないよ」
 いや、待てよ。
 今日は奢りなんだから、もっとカロリーを取らせたい。
「甘いもんないとホワイトデーっぽくないだろ、食えよ」
 俺がデザートメニューを開いて苗床の前に突きつけると、苗床は考え込んだ。
「うーん……じゃあミニパフェで」
 それでウェイトレスを呼んで、注文して、運ばれて来るのを待つ。
「でも、なんでそんなに食べさせたがるのさ」
 最初のサラダが来てから、苗床が少し呆れたように首を傾げた。

 ……そりゃ、食う時には、多少は肉付いてた方がいいからに決まってるだろ。

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