戻る
「かのちゃん! ミスコン頑張ってね」
「桃ちゃん」
 椿君が反対を繰り返す中、桃ちゃんも来た。
 椿君がものすごい速さで来たわけだから、普通に椿君に置いていかれたんだろう。
「花井! 反対しろよ」
「どうして反対するの、椿君」
 ミスコンに出ることを、意外にも桃ちゃんは反対しなかった。
 賛成だって椿君にも言ってやってほしい、桃ちゃん。
 椿君ったら、私のこと子ども扱いして……全然信じてくれてないんだ。
「かのちゃんがミスコンに出るって素敵じゃない! かのちゃんの可愛さをみんなに知っ
てもらうチャンスだもの」
 …………
 ……ああいや、そんなことはないと思う……
 そう思うのは、桃ちゃんだけでね……
 笑い者になるのがオチなのはわかってるんだよ。
「ばっかじゃねーの! そんなことして、苗床が変な男につきまとわれたり、さらわれた
りしたらどーすんだっての!」
 …………
 ……いや、そんなことは……
 そう思うのは、私を子ども扱いする椿君だけでね……

 そんな微妙な椿君と桃ちゃんの言い争いが延々続く中に、夢見さんがやってきた。
「苗床さーん! ミスコンに出られるんだそうですね! やはり椿様とご一緒の舞台にあ
がるために……!」
 いつもの調子でしゃべり出した夢見さんの顔を、しげしげと見る。
 そして、溜息が出た。
「……どうなさいました? いつもクールに話を流す苗床さんなのに、深い溜息など吐か
れて……はっ、もしや椿様の彼女さんという方と何か!」
「ないない」
 桃ちゃんと何かあったわけじゃない。
「ちょっと、夢見さんに謝らないといけないかなって思って」
「何をです?」
「今まで、妄想が時々常軌を逸してるなって思ってたこと」
「なんだ、そんなことですか。……本当にどうなさったんです?」
 私は、ちらっとまだ私が「可愛い」とか「連れていかれる」とか言い争っている二人に
視線を遣った。
 ……実は夢見さん並に根拠のない妄想ができる人って、私の周りにはいっぱいいたのか
もしれないって思っただけ。
 みんなが夢見さん並なら、それはもう「常軌を逸してる」とは言わないからさ……

戻る

inserted by FC2 system