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 東雲先輩の持ってきた扇風機が回る部室。
 扇風機が回ってたって、暑いものは暑い。最近の夏の暑さは、扇風機でどうにかなるよ
うなレベルを逸脱してると思う。
「苗床君、暑い」
 だから、そう訴えてみた。
「…………」
 タイピングしてる苗床君に無視された。
 酷い。
 でもいつものことだから、気にしない。
「暑い」
 もう一度訴えてみる。
 そうしたら、ようやく振り返ってくれた。
「椿」
「何?」
「それは人の首に腕を巻き付けて言うことじゃない」
 む。
 それだけ?
 それだけなわけ?
 首に腕が巻き付いてるだけじゃないじゃん。
 胸もバッチリ当たってるじゃん!
 なんにも感じないの!?
 いや、このくらいじゃ、やっぱりいつものことだから気にしない。
 よし、もう一押しいってみよう。
「暑いから脱いでもいい?」
 ……視線が冷ややかで、ちょっと体感温度が下がった気がする。
「やめとけ、人が来ると厄介だし」
 こう、照れて目を逸らして、くらいしながら言ってくれると見込みある気分になれるん
だけど。
 その呆れ顔は……もう、全然これっぽっちもその気になってないってことね……
「やることねーならさっさと帰れよ。邪魔すんなって」
「あんたマジで男として絶対オカシイ」
「……どこが?」
 そこがよ! そこが!

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