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 私、夢見瞳は今日も新聞部部室である第二資料室の前にいます……!
 前回は椿様に叱られてしまいましたので、今日は部室の中に二人きりの苗床さんと椿様
を、静かに覗きたいと思います。
 それでは……



「ここって、ほとんど物置だよね」
 この第二資料室に腰を落ち着けた後は、苗床はいつもの観察癖をフルに発揮して、置か
れているものを一つ一つチェックしている。
 いざ必要になった時には、ここにあるものを細大余さず活用するんだろう。
 こういう途中経過を見ていれば、細かいとは思うが、怖いと思わないんだが。
 ……校内中でこれをやってるんだな、こいつ。
「そうだな」
 俺が適当な相槌を打つと、苗床は顔も上げずに話を続ける。
「なんでこんなとこに置いてあるんだかってもんもけっこうあるし。これ、暗幕?」
「暗幕だな。視聴覚室の予備じゃね? スライドフィルムと一緒に運んで、それっきり忘
れたとかな」
 苗床が指した黒い布を、俺も後ろから覗き込んで触ってみた。つるっとした手触りで、
遮光の加工が裏にされているのがわかった。
「ふーん。これ使えば、ここで写真の現像とかもできるかな」
 ……何をやる気だ。デジカメじゃ足らねぇようなことか。
「できるかもしんねーが、現像液とかは別に必要だぜ。どうすんだ」
「そんなのは写真部に協力を願って。ね、ちょっと椿君、これで高いとこの窓と扉覆って
くれる? できるかどうか確認しておきたい」
 ……お前は。
 それやると外からまったく中が見えなくなるんだが……いいんだな?
 俺は、そう思いながらも口には出さずに、窓と扉を覆った。
 それで、外からの光は入らなくなる。
「電気消してみるよ」
 パチ、というスイッチを押す音と同時に、室内は本当に真っ暗になった。
「んー。いけるかな」
 この暗闇の中で急に抱き締めてやったらびっくりするかな、こいつ。
 本当に、無警戒過ぎる。
 ちょっと驚かしてやろうか……
「苗床」
 俺は照明のスイッチの所にいる苗床を、手を伸ばして引き寄せた。
「椿君っ?」



 なんということでしょう!
 中から窓も扉も暗幕で覆われてしまいました!
 これでは、これでは中が見えません……っ!
 椿様と苗床さん、お二人は誰に邪魔されることなく愛を育みたいと、そういうことなの
ですねっ。
 でもっ。
 でも……!



 がらっ。
 扉が開いて、暗幕がめくれた。
 急に光が差し込んで、苗床はまぶしそうに目を細める。
「椿様、ずるいですっ!」
 …………
「静かにだったら覗いてても良いっておっしゃったじゃありませんか〜!」
 ……覗きってのは、そんなに堂々とするもんじゃねーってのを知らねぇのか。
「夢見さん、何言って……まあ、いつものことか。あーでも、現像するんなら、ここの鍵
じゃつっかえ棒も必要かな。急に開けられたら、おシャカだ」
 まだ俺の腕の中にいる苗床は、平然とそう言った。
 とりあえず次回があったら、つっかえ棒が必要だってのには同意だぜ。
 それよりだ。
 お前、平然としすぎだろ……わかっちゃいたけどな。
「あと、椿君、暗いとこ怖いんだったら先に言ってよ。言ってくれれば、椿君がいる時に
真っ暗にはしなかったのに」
 ……俺は別に、暗いのが怖くて抱きついたわけじゃねーんだよ……

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