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 夏の日は長くて、下校時刻でも外は昼間の様相だ。
 ぶっちゃけ、暑い。
 身体が溶けそうだ。
 二人乗りの自転車の、後ろに座っているだけでも汗が噴き出してくるのに、漕いでる椿
君は如何ばかりか。
 と思っていたら、自転車が普段だと曲がらない角を曲がった。
「椿君?」
「悪ぃ、苗床」
「どうしたの?」
「コンビニ寄らせてくれ。ダメだ、暑い」
 その角を曲がると、すぐコンビニがある。
 話をしているうちにコンビニの前まで着いて、椿君は自転車を止めた。
 一緒に降りて、コンビニの中に入ると、それだけで涼しくて生き返る気がした。
「ほんと暑すぎるね。椿君、私、自分で自転車漕いで帰るよ。辛いでしょ」
「俺に、ここから歩いて戻れってか。お前に情けがあるなら、日が暮れるまでつぶれ荘で
涼ませろよ」
「あー、ごめん。じゃあそうしよう」
 椿君はそう言いながら、まっすぐにアイスの冷凍ケースに向かっていった。
 覗き込んで見回して、ケースの蓋を開ける。
「苗床、ソーダ味でいいか?」
「え」
「アイスおごる」
「いいよ、自分で買う」
「遠慮すんな、60円だ。その代わり、つぶれ荘着いたら、なんか冷たいもん出せ」
「……わかったよ」
 椿君は自分の分と私の分の二本、色違いのバーアイスをレジに持っていった。
 椿君の分は、色からしてイチゴ味だろう。そういうところは中学から変わってない。
 精算した後コンビニを出ると、むわっとした熱気に嫌になった。
「ほら」
 バーアイスを渡されて、袋を破る。
「これ、この暑さじゃすぐ溶けちゃうね」
「溶ける前に食えよ」
 椿君が赤いバーアイスを囓るのを見ながら、私もソーダ味のバーアイスを咥えた。
 口の中が冷たい。
「…………」
 気がついたら、椿君がじっと見ていた。
「なに?」
「……一口くれ」
 なんだ、おごるとか言って、両方食べたかっただけじゃん。
 でも、一人で二つ食べるわけにもいかないか。
「いいよ」
 バーアイスを椿君に差し出すと、椿君は受け取りはせずに、そのまま軽く屈んで大きく
一口囓り取った。
「……お前も食う?」
 もごもご口の中のアイスを転がしながら、椿君は自分のイチゴバーを差し出す。
 大きく囓ったから、お返しのつもりだろうか。
「うーん、じゃ、貰う」
 私も椿君の手にあるイチゴバーを一口囓り取った。

 二人とも溶けちゃう前に食べきるべく、黙々とアイスを食べて。
 それからまた私たちは二人乗りで自転車に乗って、走り始めた。
 アイスで涼を取ったせいか、私は少し風が涼しく感じたんだけど。
「……暑ぃ」
 やっぱり椿君は、まだ暑いようだった。
 さっきアイス食べてる時も、火照ったようにちょっと赤い顔してたし。
 あのくらいじゃ冷えないかな。漕いでるから。
「粒麗荘着いたら、スイカ切ってあげるから頑張れ!」
「スイカ? 苗床がそんなモン買って置いとくとは意外だな」
「実家から送ってきたんだよ。一人なのに、一玉送ってきて、食べるの大変なんだ」
「よし、食いきってやる」
 ぐん、と自転車が速くなった。
 身体が溶けちゃう前に、粒麗荘には着けそうだった。

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