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 土曜の朝。
 爽やかな朝の澄んだ青い空の下、分別したゴミの袋をつぶれ荘のゴミ置き場に出しに行
く。
 すると近所のおばちゃんなんかが立ち話をしていて、俺を見ると挨拶をしてくる。
「おはよう」
「おつかれさまねー」
 ちょっと待ち伏せされてるような気はするが、そこは気にしないことにする。
 近所付き合いは大切だからな。
「おはようございます」
 笑顔で挨拶だ。
 その後は、洗濯物を干す。
 シャツ、デニム……本当は下着も干したいが、下着まで干すと苗床が怒るんだよな。
 で、洗濯物を干してると、やっぱり窓下からおばちゃんに声をかけられる。
「おはよう、今日はお洗濯日和ねー」
「おはようございます、そうですね」
 これにもにこやかに返事。
 ――よし、完璧だな。
 俺が干し終わった洗濯物を眺めて、今日の挨拶の完璧さに自分で満足していると。
「……ねえ、椿君」
 後ろから、苗床が不機嫌そうな声で呼んだ。
「なんだよ?」
「手伝ってくれるのは嬉しいとか初めは思ったけどさ……土曜の朝に早朝からきて、自分
の家みたいな顔でゴミ捨てとかやっぱやめてよ。洗濯なんて、泥棒避けって言っても、ホ
ントに一緒に住んでるみたいに見えるじゃん!」
「女の一人暮らしは危ねーんだから、しょうがねーだろ。花井だって心配してただろう
が」
 まあ、これは建前だけどな。
 周りがそういう風に見てると思えば、苗床もそう思うようになるかもしんねーし。
 地道に外堀から埋めてくってのも重要だ。
「同棲してるとか思われたら、爽やか少女イメージが台無しじゃん!」
「元々そんなイメージじゃねーから問題ねーっての」



 ――その頃、粒麗荘前。
「このアパートの兄妹、お兄さんカッコイイわよねー」
「イケメンよね、今朝も挨拶しちゃったわー」
「眼福よねー、妹さん似てないけど」

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